M&Aインタビュー #5 日本M&Aセンター 西田さま

2020-07-09

当社団では、研究会開催に加えて、メインの活動として、M&Aプロフェッショナル インタビューを行います。各界のM&Aプロフェッショナルにご協力いただき、M&Aに対する想いや、大事にしていることをお話していただきます。読者にとって、M&Aに関するご自身の考えや哲学を振り返るきっかけになれば幸いです。


第5回目は、2020年6月に、株式会社日本M&Aセンターの西田さまにインタビューさせて頂きました。

株式会社日本M&Aセンター
戦略統括事業部 企業戦略部
副部長
西田 賢史さま

ご経歴: 私立桐光学園高等学校、一橋大学経済学部卒業、広島東洋カープファン
座右の銘: 大器は晩成す


Q いつからM&Aとの関わりをスタートされたのですか?

日本M&Aセンターには、2008年の4月に新卒で入社しました。なので、就活していた時期は、リーマンショック以前で景気が良かったように感じていました。小さいところから大きいところまで色々な業種を見ていましたが、ちょうど知り合いにM&A関連の仕事をしていた人がいたことから、M&Aという業界があることも知りました。

そのときに、「事業承継M&A」というのがあるというのを日本M&AセンターのHPを見て知りました。それで説明を聞きに行ったところ、商社や銀行などの大企業より、何をやっているかが分かりやすかったのと、確実に需要がある、顧客の本当の役に立つ仕事だと思ったので、興味を持ちました。当時『エスキモーに氷を売る』という本がありましたが、自分にはそのように魅力のない商品を売ることは難しいと感じたため、顧客にとって明確に必要なビジネスをしたいと考えていました。

M&Aについて特段勉強していたかというと、そういうわけではなく、学生時代は経済史を学んでいましたが、M&Aというのは日経新聞やビジネス雑誌を読んでいる中で知っていたくらいでした。

Q M&Aのどういうところに魅かれたのですか?

売りたい人と買いたい人の仲介をするという意味では、不動産や広告代理店と同じですが、M&Aの仲介の場合、喜ばれ度合が全然違うと思っています。この仕事をしていると、取引当事者が感極まって泣いてしまう場面も少なくない
これまで手塩にかけて育ててきた自分の会社を他の会社に託すという場面で泣かれる方も多くいらっしゃり、こういった場面に立ち会うことは他では中々ないのではないでしょうか。また、買い手企業にとっても数ある経営の打ち手の中で、M&Aほどインパクトのあるものはないだろうと感じました。

Q 当時の面接はどんな感じだったのですか?

面接官は最初から、現会長、現社長の2名でした。最初は2対12の集団面接、その後監査役の方も入り3対1の面接、と絞られていきました。

一次面接で聞かれたことは、基本は志望動機。持ち時間は一人5分でした。私の順番は最後だったのですが、私の前にいた就活生たちは、親が中小企業を経営していてM&Aの重要性が分かっているという人たちだったりして、私以上にM&Aに高い意識を持っている人ばかりでした。私自身彼らの話を聞いたことで、よりM&Aの必要性を感じることができました。しかしM&Aへの熱意が強すぎて、時間オーバーになってしまった人が多かったです。結局、私は時間のない中で志望動機をポイントだけ述べたのですが、結果的にはそれが良かったのかもしれません。二次面接は普通に話して相互に理解が進み、採用いただいた感じです。
まだ会社の規模が小さく、その年の入社は5人のみでした。

当初面接官だった3人はそれぞれキャラクターが異なり魅力を感じました。会長は理念的なことを伝える役割、社長は採用する気満々で相手を引き込むようなトークをする人、監査役の方は、大学で何をやってたのかなど就活生のレベル感を確認していた、といったイメージです。
入社当時の社員数は60名くらいでしたが、今は約600名までの規模になりました。

Q 入社されてからはどのようなお仕事をされてきたのですか?

最初3年間は金融機関担当の部署にいました。
元々当社は、1991年に各地域の有力な公認会計士・税理士が中心となって設立されました。会計事務所の先生方と、事業承継ニーズのある顧問先にM&Aサービスを提供するというのが当初のビジネスモデルでした。一方で、金融機関と連携してM&Aを推進チームもあり、私は地方銀行担当の部署に配属されました。当時はまだM&Aの重要性がそこまで認識されていない時期だったこともあり、まずは地方銀行の行員の方々に、事業承継の重要性、地銀がM&Aの支援をしなければならないことを啓蒙するような役割を担っていました。

当時地方銀行には、“他県資本”という考え方が根強くあったように感じていました。例えば、新潟の会社を秋田の会社が買うというのは嫌がられます。中国企業が日本企業を買うような感情に近いのかもしれません。地方銀行にとって、事業承継の際に他県資本が入ってくるのは避けたいことであり、県内資本でしかマッチングしないという地方銀行もありました。そこを、私たちは、対象会社のためにも、そして現地の雇用を守るためにも、全国規模で最適な会社と引き合わせることの必要性を説いて回りました
本部で「M&Aをしましょう」といっても支店から情報が上がってこないと話が進まないので、各支店での勉強会を行い、「こういう会社があったらM&Aをすべきなので、本部に連携してください」と伝え、案件があれば地方銀行と一緒に提案をしていました。

そして半年後、リーマンショックが起きました。
そのときに再生案件に携わることが多くなりました。再生案件での経験は私にとって印象的でした。
事業承継M&Aでは、双方から感謝されることが殆どです。しかし、再生案件では、誰かしら1者は損をします。そのときの会社は数百人の規模の会社で、スポンサーを探索する前に、従業員の1/3を退職していただかないといけないということになっていました。そして、ある週、専門家ミーティングでその会社に行ってみると、1/3の席がガラッと何もなくなっていたんですね。同じM&Aでもこんなに違うのかというのは衝撃を受けました。再生の場合、みんながハッピーというわけにはいかないんだというのを実感しました。我々としては、そうならないように、経営者の方々に対して、先を見据えたM&Aの提言をしていかなくてはならないと感じました。

Q 再生案件での専門家ミーティングでの御社の役割は?

日本M&Aセンターの役割は、スポンサーを探してきて、その取引を完了させるところまでを担います。バリュエーションレポートの作成やスポンサーへの提案資料作成なども行います。スポンサー探しは、当初はドアノックから行うケースが多かったですが、今はM&A意欲のある国内ほぼ全ての企業とコネクションがあるので、電話一本でつながるようにはなりました。

その後、4年目から業界に特化した部署に異動しました。5年目くらいから昨年までは建設業界に特化しており、建設業界支援室の責任者を務めていました。
全国でセミナーを実施したり、業界紙への寄稿を通じてネットワークを作るなど様々な活動をしました。建設業界はまさに日本のインフラを支える業界ですので、M&Aの支援をさせていただくのも非常にやりがいがありましたし、経営者の方々も名士の方々が多いので刺激的な環境でした。

Q これまでで最も印象に残った案件はどのような案件ですか?

当社の先輩が手掛けた案件ですが、私が入社した2008年に成約したワタミとタクショクの案件ですね。この案件は、税理士の先生経由で会社に相談がありました。元々タクショクは長崎県の会社で、高齢者の方向けのお弁当宅配会社です。IPOも検討しておりましたが、IPOと近しい効果を得る手法として、M&Aで上場企業の子会社になることを提案しました。その後、2社を引き合わせて、お会いされてから1か月というスピードで決まりました。
本案件は、こういったIPOを検討する会社が新たな成長を求めてM&Aをするという新しいタイプのM&Aという意味で意義がありました。
また、タクショクは当時80億円だった年商がワタミグループに入り約400億円と大きく成長しました。また、ワタミはその後本業が苦しい時期もありましたし、今もコロナという逆風の中、このタクショクの事業が今では主力事業になっています。ワタミという上場企業にとってインパクトのあるM&A,また10年以上もそのM&Aが大きく貢献しているという点で印象深い案件ですね。

Q ワタミの案件は税理士経由で案件が紹介されたとのことですが、やはり税理士経由で相談がくることが多いのですか?

やはり税理士経由が多いです。中小企業にとって税理士は相談しやすい存在だと思います。一番身近な専門家ですし、銀行に相談すると融資姿勢が変わってしまうこともあると考える経営者もいらっしゃいますので。
案件のボリュームゾーンとしては、売上5億円くらいが一番多いです。当時のタクショクの売上は約80億円なので、日本M&Aセンターの中では大きい案件です。全国には、大きい税理士事務所があり、そういった税理士先生からは規模の大きい企業の案件を紹介されることもあります。

一方、買い手企業から譲渡見込み企業にM&Aの提案をしていく「仕掛け型」の案件もある。
買い手と一緒に、対象企業のリストアップからお手伝いすることもあります。その際は、グループ会社の矢野経済研究所と一緒にリサーチしています。まずは我々が買い手の代理人としてドアノックしご提案をしますが、そもそも全く譲渡することを考えていなかったオーナーさんを口説くのには、2年かかったという案件もあります。

その案件は、口説き先の社長さんはまだ40代で、会社は財務的にもピカピカ。特に売る理由がありませんでした。しかしそこで諦めずに、「一緒に成長していきましょう」と2年越しで口説きました。相手社長が決断した決め手は、今後自社単独で他の大手企業と競争していくよりも、業界内で力のあるところの勝ち組連合に入らないといけない、と判断したことにあったと思います。また、会社の将来性だけでなく、社長個人の将来ビジョン、少数株主の意向、従業員の将来などを総合的に考え、各ステークホルダーが同じ方向を向くことができたことも重要でした。

Q M&Aの中で大事にしていることは何ですか?

1つは進め方。プロセスが大事だと思います。
我々の進め方には基本の標準形があります。進め方を間違うとトラブルになってしまいます。
よくあるのは、DDで”おばけ“が出るということであり、それを防ぐ必要があります。未上場企業なので、簿価と時価が違って当たり前、上場企業基準で見ると、「これダメだよね」というのは山ほどあります。そういうものを最初に整理するのが我々の仕事になります。社員にいつM&Aのことを開示するか、なども進め方を間違うとトラブルを招きます。

例えば、我々がトップ面談をセッティングするときには、買い手企業からも着手金頂くことで本気度を見ています。本気度のある方だけを引き合わせることで、高い成約率を保っているのだと思います。

そして、トップ面談でも準備が大事です。
トップ面談でも、何の準備もなくすぐに引き合わせても意味がありません。IM(インフォメーション・メモランダム)の作成はもちろん、加えて、双方トップのプロフィールを整理します。どういう経歴なのか、また、どういう性格なのか、話をするときの癖や傾向などまで分かったうえで、どうアプローチするかを考え、双方と面談のイメージをすり合わせます

会社の表面的なことだけを知ってもズレてしまうので、性格まで理解しようとしています
例えば、日本M&Aセンターという会社とトップ面談をすることになったとき、M&Aの会社というイメージから、証券会社やメガバンクのようなイメージを持って臨まれる方がいるかもしれませんが、当社は創業者である会長・社長が所属していた日本オリベッティというシステム会社の営業スタイルや報酬体系などの文化は色濃く受け継いでおり、その他の役員のカラーも強く出ています。そういった背景を含め、M&Aプロセスの早い段階で本当にお互いが理解できるかどうかが、双方のM&Aに対する納得度、延いてはM&AプロセスやPMIの精度につながると考えています。

なぜここまでするかというと、双方にとってM&Aは一回一回のお見合いが非常に大事です。あの時の会社が今考えると一番よかった、、、と悔いることがないように双方にとってベストなご面談ができるよう心がけています。

また、契約で縛れない、キーマン社員をいかに引き留めるかにもかなり気を遣っています。中小企業のM&Aではキーマンの離脱が一番の痛手なので、社員への買収の開示方法・内容が非常に大事。社員のプロフィールもかなり細かく作り、入社年次、家族構成、父母がどこに住んでいるのか、等を踏まえて、その人が重視しているポイントが何なのか(子供の教育を重視している、親の介護で不安がある等)をプロファイリングし、どのように開示するのか、社員のフォローもしっかり行います

もう一つ重要なポイントは、言葉の意味の違いです。
売主と買主で同じ言葉でも想像している意味が全く異なることがあります。それによって、話が全くかみ合わないことになります。たとえば、M&Aという言葉も、事業承継型に慣れていて「三方よし」という考え方の人もいれば、再生案件ばかりで「M&Aをやる時点でその経営者は失敗者」と思っている人もいる。「DD」にしても、専門家の方によって、粗探しをして条件交渉するためのものと考える方もいれば、一緒になる前の健康診断くらいの緩やかなものと考える方もいます。このような言葉の意味を仲介者・アドバイザーがしっかり理解し、意味を揃えることが重要と考えています。
ただし、双方に理解しあえない時もあります。そのようにならないように予め相性の合う企業同士のマッチングを心がけています。

日本M&Aセンター東京本社、成約室にて。(日本M&Aセンターでは、成約する際に、結婚セレモニーのように、売主・買主が一堂に会し成約式をこの部屋で行う。)

Q M&Aに絡む職業は色々ある中で、日本M&Aセンターでやりがいを感じる部分というのはどういった部分でしょうか?

M&Aの本質は相対するものではなく、全体がチームになって企業価値向上をしていくこと。同じ目的に向かって、売主・買主同じチームで進めるのがM&Aの良いところだと思っています

一体感を出すために工夫していることは、売主に全てをさらけ出してもらうこと。極端な例ですが、「結納した後に、実は隠し子がいました、というのはやめてね」ということです。当社の場合、事前の調査度合は他の仲介会社よりも高いと思います。DDの前後や、買収実行の前後のギャップを出来る限りなくすのが重要です。そういった意味で、トップ面談で信頼関係構築できるか否かは非常に重要なポイントで、スタート地点になります。信頼関係が構築できれば、売主側も、この人に隠し事しちゃいけないなと思うし、買主側も厳しく精査する中でも売主側に対し最大限の評価をしやすくなるし、とお互いがすり寄ってくるような関係性を構築できるかが重要だと思います。

Q 最後に、就活生や中途採用の方に何かアピールポイントはありますか?どういう人に来て欲しいか?

「ガツガツした人」に来て欲しい。
成功者である経営者のために仕事ができること、業界の歴史が浅く、まだまだチャンスがある市場の中で、ビジネスマンとして頑張れば頑張るほどステージを上げやすい環境だと思います。その環境の中で成長したいと思うアグレッシブな人に是非来て欲しいですね。

 

取材・写真 MAVIS PARTNERS株式会社

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