モロッコ現地M&Aレポート(基礎編)

2020-07-02

こんにちは。PMAL運営スタッフの井上です。だいぶお待たせしてしまいました。
第1回目の現地視察M&Aレポートは、私の夫の国であるモロッコという国のM&A事情をお届けいたします。
新型コロナウイルスで当面海外旅行や海外出張も中々できない日々が続くと思いますが、是非この記事を読んで、モロッコ気分を味わっていただければと思います

モロッコと言うとどんなイメージをお持ちですか?

想像もつかない世界かもしれませんが、最近はヨーロッパやアフリカへの玄関口としても注目され始めており、日本企業の進出も加速しているのです。今回は、現地での自身の体験やモロッコ人家族から聞いた話も盛り込み生々しさを重視したレポートとなっております(一部個人の私見も含まれております点、ご留意ください)。
アフリカへの進出に関心のある方、必見です!

目次

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(基礎編)←今回

  1. モロッコってどんな国?
  2. モロッコ経済の魅力とは?

(M&A編)

  1. モロッコのM&Aの状況は?
  2. 日本企業にとってのモロッコM&Aの機会とは?

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(基礎編)

  1. モロッコってどんな国?
  • モロッコはどこにあるのか?

モロッコはアフリカの北西部に位置し、北部はジブラルタル海峡と地中海、西は大西洋に面しています。面積はおよそ日本の約1.2倍です。スペインまでの距離はわずか14km。主要都市から欧州各国に飛行機で2~3時間程度、数万円で渡航可能なため、双方の行き来がさかんです(親族をたどれば、だいたいヨーロッパ系移民がいます。我が家も遠い親戚を含めると、フランス人やイタリア人がいたりします)

 

  • モロッコでは何語を話すのか?

モロッコの公用語は、アラビア語とベルベル語(ベルベル人という先住民族の言葉ですが、ベルベル系の人でも話せない人が多い)、第二公用語はフランス語です。

ただし、アラビア語といっても、モロッコ語は「マグリビヤ」と呼ばれ、通常のアラビア語とは違う部分があります。なので、アラブ人(いわゆる中東の方)はモロッコ語を理解できません。逆に、モロッコ人は、通常のアラビア語もコーランを読むために習うので、両方理解できるそうです。というわけで、通訳を雇うときはアラビア語しか話せない通訳を連れていかぬようご注意を

 

英語は一般庶民にはほぼ通じないと思ったほうが良いです。もちろん欧米に留学経験のあるエリートの方々は流ちょうに話せます。またモロッコ国内で大学を出た人、或いは観光業をやっていて独学で英語を学んだ人は、ある程度英語を話せますが、普通のモロッコ人は話せません。フランス語は小学校から教わっており、基本皆さん話せる方が多いです。交通標識などもアラビア語とフランス語の併記になっています。

(エッサウィラにて井上撮影:「泳がないで」の標識)

 

  • モロッコのイスラム教はゆるめ

宗教は、イスラム教です。ただし、結構ゆるめのイスラム教

年代が上の人たちは、礼拝(サラート)を欠かさず1日5回しますが、若めの人はそこまで厳密にはやらない人が多いです。“ゆる系”イスラム教徒(私の夫も然り)でも守ることは、「豚は食べない」「断食(ラマダン)はちゃんとやる」「犠羊祭は家族で過ごす」くらいでしょうか。お酒も飲む人は飲みます。女性はスカーフ(ヒジャブ)を頭にまいてはいますが、中東のように真っ黒のスカーフから目だけ出すような人はごく一部です。若い人の中には、スカーフすらまいてない人もちらほら。なので、イスラム教=“こわい”という印象は、モロッコでは全く持たないです。一方、「アッラーは人類を創った神様」と産まれたときから当たり前に信じている点は日本人とは大きく違います。(文化については、ここに書いていくときりがないので、詳細を知りたい方は直接お話します)


―井上撮影@親族の家。犠牲祭の日には、1家に1羊買ってきてきます

 

  • モロッコの治安は安定しているが・・役所の手続きには注意

政治体制は立憲君主制で、いわゆる王様がいます。現在はムハンマド6世という王様。王様は人気が高く、国民に寄り添った改革姿勢を打ち出したことで、モロッコは「アラブの春」のときにも大きな混乱はなく、アフリカの中でも治安が安定しています。
実際に、JETROによる「アフリカ進出日系企業実態調査」では、各国の投資環境面でのメリットの「安定した政治・社会情勢」について、アフリカ平均が34.0ポイントに対し、モロッコは79.4ポイントと平均を多きく上回るハイスコアでした。

ただし、都市部と地方の格差は大きく、若年層の失業率も課題です。特に、モロッコ北部(スペイン寄りの地域)は反王政の住民が比較的多く、度々デモ等も発生しているとのことです。こういった課題への対応として、外資を誘致し、雇用を生み出そうとしているという背景があります。

加えて、「バクシーシ」と呼ばれる金銭の受け渡しは日常的に存在します。交通規制にひっかかると警察に見逃してもらう代わりに、バクシーシを払う場面は度々見てきました(外国人旅行客の車は基本止められず、基本現地人が止められます)。さらに、何か役所の手続きを早めたければ、バクシーシ、、、
というように、現地でのやりとりはグレーな部分が多く、煩雑かつ分かりにくいです(聞く人によって、毎回手続きの仕方が変わることもしばしば)。基本的に現地で何かやろうと思ったら、現地で信頼できる弁護士などを雇うのが安全です。

 

  1. モロッコ経済の魅力とは?

単体の成長性では他国に劣るも、「モロッコから10億人のマーケットにアクセス」できる
GDP成長率や人口等で比較すると、東南アジアのほうが人口が多く成長率も高い、またアフリカの有望国エチオピア・ケニアなどと比べても、モロッコ単体での成長性や市場ポテンシャルは劣ります

 

(JETRO:各国地域データ比較よりMAVIS作成)

 

しかし、治安の良さや人材雇用の安定性、税制面の投資優遇制度の充実等による進出のしやすさ(参考資料※2参照)、アフリカ54か国中29か国、31都市への直行便が就航しているというリージョナル・ハブとしてのアクセス面の良さ、さらに51か国とのFTA締結による欧州・米国などの巨大市場へのアクセスを有することがモロッコの魅力となっています。
最近では、ルノーやPSA等の仏二大自動車企業がモロッコに進出したことで、自動車関連産業の集積も進んでいます。後述するように、輸出フリーゾーンやサービス・金融業向けの税制優遇ゾーンなどの投資環境も整備されてきており、日本の身近な例に例えるならば、タイの生産輸出機能とシンガポールの金融ハブ的な機能の両方をあわせ持とうとしているようにも見えます。

参考までにですが、アジアの人口は52億人をピークに2055年には減少に転じる一方、アフリカ全体では増加し続け、2020年の約14億人から2100年には42.8億人となり、アジアの47億人に迫る人口となる予想です(参考資料※1)。このことからも、今からアフリカの市場成長性を見据えてモロッコに進出する企業も増えてくると考えられます。

 

  • 意外と日系企業が進出しているモロッコ

アフリカ全体では、日系企業で857の拠点を有していますが、そのうち、1番多いのが南アフリカ273拠点、2番目がケニアの70拠点、そして3番目が実はモロッコで64拠点なのです(2018年10月時点)。意外と多いと思いませんか?

2015年から外資誘致のための補助金制度(2015年投資産業開発基金、2016年ハッサン2世基金)が用意されたこと、2012年にケニトラフリーゾーン開設、2017年にタンジェMED港が74か国174港に接続されたことなどにより、2014年の37拠点から、5年間でほぼ倍増しています(2020年1月時点では71の日本企業がモロッコで活動)。
(上記の補助金やフリーゾーン等の詳細解説は割愛しますので、参考資料※4を参照ください)

それでは、どのような日本企業が進出しているのでしょうか?

<~2016年までにモロッコに進出している主な企業(一部抜粋)>

(中東協力センターニュース2019.8「モロッコのビジネス環境と日本企業の進出」より)

 

<2017年以降進出した主な企業>

(各社プレスリリース等からMAVIS作成)

 

直近進出した企業を見ると、やはり欧州市場向けの製造拠点設立が多い一方、東洋インキのように、アフリカ大陸での事業展開・拡大を目指してモロッコに拠点を設ける企業も出てきている。

 

なお、これまで日本とモロッコ間の投資協定と租税条約は実質合意に至っていたものの、効力が発生していませんでした。モロッコへの直接投資には二重課税等の問題があり、投資の一つの障壁になっていましたが、2020年1月に署名がなされ、効力が発生することとなったことで、より経済関係の強化が期待されています。

次回は、モロッコのM&A事情についてお伝えします!


ーモロッコの家庭料理クスクス。モロッコ人は基本手づかみで食べます。

<参考資料・URL>

(井上 舞香)

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